腫瘍(がん)の治療につきまして
腫瘍(がん)の診療で最初に行うことは、腫瘍の種類と進行度を把握すること(診断)です。それぞれの腫瘍発生部位や患者様の容態に合わせて、診断方法を選択します。
診断については、飼主様にわかりやすく説明させていただき、今後の治療法について相談させて頂きます。
腫瘍の主な診断方法
1.穿刺吸引(FNA)生検
腫瘍の好発部位に皮膚が挙げられます。皮膚にできた腫瘤診断に特に威力を発揮するのが、穿刺吸引(FNA)生検の迅速診断です。細い針を腫瘤に刺して採材して診断する院内検査で、約10分程度で完了します。上の写真は、皮膚にできた直径1cmほどの腫瘤のFNA迅速診断標本です。この症例では、核仁明瞭で異型度の高い核を有する細胞がシート状に認められ、細胞分裂像も散見されたため、上皮系の悪性腫瘍を強く疑いました。後日、手術で完全に切除し、現在は良好に経過しています(切除標本の病理組織検査では、扁平上皮癌でした)。
FNAで良性腫瘍と診断できた場合は、手術しないこともあります。左写真は、FNAで良性腫瘍(皮脂腺上皮腫)の可能性が高いと診断したため、経過観察することとなりました。また、若齢犬に多い良性腫瘍の皮膚組織球種(Canine Cutaneous
Histiocytoma)は、多くは数ヶ月以内に自然退縮するため、手術の必要はまずありません。また、腫瘤が炎症と診断できた場合は、抗生剤等の投与で様子をみていきます。
ただし、上に例に挙げたようにFNAで性質(悪性か良性かなど)が明らかになるのが、すべてではありません。たとえば非上皮系の腫瘍だと細胞がFNAでは採取されにくく診断できなかったり、良性か悪性か区別できないこともあります。 当院で手術件数が多い犬の乳腺腫瘍は、良性か悪性かはFNAでは診断できません。それは、組織内で複雑な構造をとるためで、FNAでは乳腺腫瘍か否かを診断するのみで、悪性度は経過、大きさ、触診などで推察し、術後の病理診断ではじめて確定します。
2.エコー(超音波)診断
主に腹腔内(おなかの中)にある腫瘍の検出に威力を発揮します。右の写真は、わんちゃんの脾臓にできた悪性腫瘍(血管肉腫)を疑うエコー像です。血管肉腫を疑う腫瘤では出血する可能性が高いので実施しませんが、他の腹腔内腫瘤では、悪性か良性かを診断するために、エコーガイド下でFNAを行うこともあります。
3.レントゲン診断
主に胸腔内(胸の中)や骨にある腫瘍の検出に威力を発揮します。右の写真は、肺の悪性腫瘍(転移巣)を示すレントゲン像です。このような場合、残念ながら手術をすることはできませんが、今後どのようにするべきかを一緒に考えさせていただき、生活の質の維持・向上を目標に尽力させていただきます。
4.その他の診断方法
頭の中に腫瘍が疑われる場合は、MRI検査を行う場合があります。当院にはMRIがありませんので、高解像度のMRIがあり、神経疾患に精通されている先生がいらっしゃる大学病院や協力病院(福岡県)を紹介させて頂いております。
腫瘍の主な治療方法
1.外科手術
多くの腫瘍で第一選択となる治療法です。マージン(腫瘍の周囲で腫瘍に侵されていない組織)をしっかり確保して取り除きます。右の写真は犬の腸管にできた悪性腫瘍の切除手術の写真です。腫瘍が腸管を閉塞させていたので、その部分を切除し、端々吻合しました。
左は、フェレットさんの皮膚にできた良性腫瘍(毛芽腫:昔は基底細胞腫と呼んでいた腫瘍)の手術前の写真です。電気メスを用いて切除しました。良性腫瘍でも大きくなって出血するものなどは原則手術します。
右はシー・ズーにできた腹腔内腫瘍の摘出手術中の写真です。通常、膣の平滑筋腫は膣から体外に"ポロ"っと出てくることが多いのですが、この子の場合は、子宮頸管近くの膣から発生したため、腹腔内で増大しました。膀胱や腸を圧迫していましたが無事に摘出し、術後元気が回復しました。
左の写真はボーダー・コリーにできた20cmを超える巨大な乳腺腫瘍です。表面が割れて自潰していました。今回は無事に手術で摘出しましたが、乳腺腫瘍は、最大径2-3cmを超えると転移する可能性が高くなるので、増大傾向があれば、早めの摘出を検討する必要があります。
2.抗がん剤治療
悪性リンパ腫や急性リンパ性白血病などでは、抗がん剤による治療が第一選択なります。血液検査などで健康状態を把握して、副作用の発現に注意しながら行います。なお、当院では、抗がん剤の投与は原則すべて院内で行います。抗がん剤の多くは発がん物質でもあり、安全面からご家庭で使用するための錠剤などは処方いたしません(ただし、ロムスチン(CeeNU/CCNU) は常備していますが、院内で投与しています)。誤って小さいお子様などが飲んでしまった場合は、重大な副作用が生じる可能性があるからです。抗がん剤に相当しない薬剤、例えば、がん増殖抑制効果が報告されている薬剤やサプリメント、あるいは鎮痛作用がある薬剤などはご家庭で服用いただくことがあります。
3.その他の治療法
放射線感受性の腫瘍には、放射線療法が有効です。ご希望の方は、大学病院に紹介させて頂いております。